トラウマ・PTSD

トラウマの克服方法

トラウマを克服する方法を考える時、私達が「トラウマ」と呼ぶものを、2つのカテゴリーに分けて考える必要があります。というのは、それぞれの場合で、トラウマ的な出来事が私達に影響する、その現れ方が異なるからです。このブログでは、 トラウマ形成のメカニズムの基本的な点を整理して、以下の2種類のトラウマ、それぞれについて克服する方法について検討します。 I.  2種類のトラウマ 1つ目のトラウマは、生命を脅かすような体験で、「大きなトラウマ」と呼んでみます。そのような出来事が原因となって、出来事が終わった後に、フラッシュバックなど、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を引き起こすものです。そのような「大きなトラウマ」の体験には、日常の中では出会うことの少ないような出来事、例えば、性的・身体的・心理的虐待、自然災害、拷問、落下や事故による身体の負傷、大病などがあげられます。 統計では、このようなトラウマ的な出来事によってPTSDのトラウマ症状を発生する割合は、それを経験した人全体の約20%だと言われています。PTSDの症状がどのようなものか、それが発症するメカニズムはどのようなものか、ということについては、私のブログ記事「トラウマとは何?」 で、説明しています。 2つ目は、幼少期に安心感を強烈に揺さぶるような出来事を体験する場合です。便宜上、これを「小さなトラウマ」と呼びます。私達の脳は、生まれてから6才頃までは、 脳波が催眠状態と同じ波動にあります。この期間に、例えば、不安定で危険な環境に置かれる、両親から引き離される、重度の病気を患う、身体的・感情的・言語的虐待、性的虐待、家庭内暴力を受ける、いじめや無視を経験する、といったことは、トラウマの原因になります。 そして、この時期のトラウマ的経験は、その後の人生の青写真を作る「コアビリーフ」を形成する大きな要因になります。私達の多くは、生命を脅かすような体験の記憶はなくても、無意識の内に作られてしまっている自分自身を制限するパターンや、低いセルフ イメージなどに苦しむ場合が多いです。それは、この時期に経験したトラウマ的体験に起因していると考えることができます。この時期のトラウマ的経験は、どのようなメカニズムで、その後の人生の青写真を作ることになるのでしょうか? II. トラウマ形成の基本的メカニズム トラウマの克服の為には、以下のようなトラウマ形成のメカニズムに注目することが大切です。 1.トラウマ形成の鍵:「凍り付き反応」 私達は、トラウマ的な出来事に出会って、 闘うことも、逃げることもできない場合、「凍り付き反応」を発動させます。身体の感覚を麻痺させたり、意識や感情を凍らせたり、意識の部分だけ全体から切り離したりということが起こるのです。 この際、トラウマ的な状況に出会った際に発生した過剰なエネルギーは、本来ならば、闘ったり逃げたりすることで解放されるのですが、それが、この「凍り付き反応」によって、身体に取り込まれて閉じ込められて、身体のどこかに存在したままになってしまうと考えられています。(ピーター・リヴァイン 、2008年) また、この「凍り付き反応」が起こると、感情的、身体的に圧倒されるような体験から自分を守る為に、意識の一部分がトラウマのあらゆる情報を保持したまま、エネルギー的に全体から分離するということが起きる場合があります。 これは、「解離」という言葉で表現されていて、心理学の用語としては、150年以上まえから使われてきています。しかし、「解離」がどのように起こるのかについては、研究者の間で一致した説明があるわけではないのが実情のようです。 筆者は、「凍り付き反応」の際に「トラウマ・カプセル」が形成されると想定するロバート・スケアの理論と、ルパート・シェルドレイクの形態形成場の仮説に基づいて、「トラウマ形成」のメカニズムを以下のように理解しています。そして、この理解は、トラウマ克服法を検討する際の、重要なポイントになります。 2.トラウマ形成の注目ポイント トラウマ形成における以下のポイントは、特定のトラウマ症状を克服する上で、どのような方法がベストかを考察する上での鍵を示唆していると考えられます。 3.トラウマ形成のポイントとトラウマ克服 上記の内、3番目と4番目は、「大きなトラウマ」によるPTSDの症状と関連します。トラウマを体験した時に起こる「解離」によって(上記3番目)、トラウマ的な出来事を完全に忘れてしまったり、不完全に、或いは断片的に思い出されるということが起こります。それと同時に、何かがトリガーになってトラウマの体験を再体験し続けるので(フラッシュバック)、過去の体験を過去のものにできない状態が続くわけです(上記4番目)。 5番目と6番目は、「小さなトラウマ」、特に幼児期トラウマの影響と関連します。これは、その体験を通して「学んだ」こと、つまり、どんな感情を持ったか、どんなことを考えたか、どんな風に感じたかなどが、潜在意識に記録されて、それが、後の人生で起こることに対して、 意識しないでも特定の反応をしてしまうようになるということです。これは「潜在記憶」と呼ばれています。(ロスチャイルド、2015年、pp. 42-44) 「大きなトラウマ」、「小さなトラウマ」のどちらの場合においても、トラウマ的出来事の影響は、トラウマが起きた際に分離する意識の一部が「トラウマカプセル」のようなものとして潜在意識の身体エネルギーフィールドに入り込んでしまったり、潜在意識に何らかの記憶が刻印されることで、【潜在意識の深みから、様々な形で、私達に影響を及ぼす】ということを理解する必要があります。 それでは、顕在意識の背後の潜在意識の深みから私達に影響を及ぼし続ける意識の部分や、「潜在記憶」を、私達は如何に癒し、トラウマを克服することができるのでしょうか?以下に、トラウマの治療法、克服法の検討に入りたいと思います。 III.トラウマ克服の3段階 トラウマの克服は、トラウマ解放のプロセスを促進するワークによってのみ達成されるものではなく、そのようなワーク以前に、クライエントが自分自身のリソースと繫がり、トラウマの症状を自らコントロールすることができるような基盤を作るサポートから始まります。この点は、PTSDの治療だけでなく、「小さなトラウマ」の克服においても、同じです。 トラウマ克服においては、以下の3つ段階のアプローチが必要であると考えられます。これは、PTSD治療についてのピエール・ジャネのモデルを参考にしつつ、「小さなトラウマ」も含めたトラウマ全般についての克服のプロセスです。但し、後述するように、各段階は直線的に進行するものではないということを理解する必要があります。[下記の3段階それぞれの右の括弧内は、PTSDなどの治療についてのピエール・ジャネのモデルによる表現です(ロスチャイルド、2015年、p. 63)。] 1.リソースの構築 第1段階は、クライエントの生活とトラウマ症状に対する対処能力を改善して、日常生活の状態を安全で安定的なものにしていくことで、療法によるワークの為の基礎を作ろうとするものです。グラウンディング、日常生活の改善、友人や家族との繋がり、簡単にできる運動、等が含まれます。 ロスチャイルドは、PTSDのクライエント、特に安定さを欠くクライエントとのワークでは、必ず第I段階に成功するまでは、この第II段階に取り組むべきではないと指摘しています。 筆者は、この基礎として、自らの魂(の波動)とつながることを、内なるリソースの最も重要な部分と捉えています。従って、クライエントがその内なるリソースをとの繋がりを体感し、その繋がりに容易に戻ることができるように、練習してもらうことを最初に行います。誘導瞑想の実践やエナジーワークを駆使して、その基礎を早い段階に集中的に構築します。 2.トラウマ克服の療法について 第II段階に関して、ロスチャイルドは、ジャネによる「トラウマ記憶の想起」の内容について、トラウマ治療では、必ずしもトラウマ的な出来事を「想起」する必要はない、むしろそれは助けにならない場合が多い、という点を正しく明記しています。 筆者も、この点に賛成です。New Code NLPの諸手法や、エナジーワーク、そして後で紹介するエネルギー療法は、トラウマの記憶を詳細に想起することなくトラウマ症状を軽減することを可能にしてくれます。筆者のアプローチの基本は、クライエントの内なるリソースを強めて行くことを同時並行的に行いつつ、それらの手法によって、心身の状態を整え、トラウマ反応を軽減して、クライエントの状態を見ながら、注意深く、トラウマの元の部分をクリアーしていくというものです。 3.統合 ジャネのモデルで第III段階として捉えられている統合(家族と文化の統合と通常の生活)は、第1、第2の後の、別個のプロセスとして捉えるより、トラウマ克服の全てのプロセスで、同時進行的に働くものだと捉える方が、より良い戦略だということができます(ロスチャイルド、2015年、pp. 68-69)。 全てのプロセスにおいて、トラウマ克服に取り組む中で得た新しいリソース、自分自身やトラウマに対する理解、トラウマ反応に対処するツールなど、どのようなものでも、日常生活に統合して、今現在の生活をすこしずつでも改善していくことが大切です。 筆者のアプローチにおける「統合」は、エネルギー体や意識の変化を、全てのエネルギーシステムに統合することから始まります。その変化は、感情、思考、感覚、行動パターンにまで影響していき、日常の生活にも変化が現れ始めます。その変化は、「トラウマ以前の状態に戻る」のではなく、その人が本来持っているものに目覚め、それを活性化するような変化であると言うことができます。 筆者は、各人が本来持っている内なるリソースにつながってこそ、真の「癒し」やトラウマの克服が可能だと考えています。「統合」は、その新しいイメージを、感情、思考、そして、身体レベル、日常の生活レベルへと、一貫させて安定化させることを意味しています。これは、第I段階の最初から、小さな「統合」を重ねながら、継続して行く非常に大切なプロセスです。小さな「統合」を積み重ねていくと、いつの間にか、大きな変容を遂げている自分に気づくことでしょう。 以上の点を踏まえて、いよいよ、トラウマ克服の為のトラウマ療法について、検討しましょう。 IV. トラウマ克服の諸療法 トラウマ回復の為の療法は数多く存在していますが、トラウマを克服する鍵は、自分の状態や好み、ニーズを理解して、自分に合った療法やアプローチを選ぶことです。他の人達にいい結果が出たとしても、その方法やアプローチがあなたに合っているとは限りません。また心理療法の権威が評価するアプローチであったとしても、別のアプローチの方があなたに合っているかもしれません。要は、自分のニーズに合った方法やアプローチに出会うことです。その為には、いくつかの療法を別のセラピストで試すか、いくつかの療法に精通している信頼できるセラピストを選ぶことが大切です。 1.認知行動療法 認知行動療法は、最も普及している心理学の分野であると言えます。 認知療法は、うまくいかなくなっている思考や感情や行動のパターンを特定して、それを変えることで、様々な感情の問題をクリアーしようとするものです。認知理論の基礎となっている仮説は、私達の思考が私達の感じ方や行動を規定するというものです。従って、否定的な思考パターンなどを変化させることに注意を払います。 認知行動療法は、実際に行動しながら、思考と感情を分け、認知の偏りや、思考のクセに気づいてそれを正していく練習と実践を重ねることで、時間をかけて効果を上げていきます。認知療法には、他に、人を自らが抱える恐れに立ち向かわせる暴露療法などがあります。 2.ソマティック心理療法 身体と感情や思考プロセスとの関係性に着目して、身体の感覚を基礎にした療法です。ソマティック心理療法は、身体を基礎としたトラウマ心理療法で、トラウマ体験時に取り込まれた過剰なエネルギーの解放や、身体のどこかに保持されているトラウマ体験の記録、つまり、身体記憶に取り組みます。 ソマティック・エクスペリエンス ソマティック・エクスペリエンスを創始したピーター・リヴァインは、人がトラウマを体験して、闘うことも逃げることもできない時、「凍り付き反応」が起き、その際に、過剰なエネルギーが解放されずに身体に取り込まれてしまうことに気づき、その理解を基礎として彼のメソッドを開発しました。 彼は、クライエントが身体の感覚に従うことで、トラウマ体験時に完了できなかった動作や行動をやり遂げることができるということ、そして、トラウマ克服にとって、この完了の行動が決定的に重要であることを発見しました。 クライエントは、身体の感覚を追うことで、トラウマパターンに伴う感情と感覚の全ての要素を体験します。そして、先に進む前にそれらを完了させてやることによって、トラウマ体験と関連した感情や衝動を変容させることができるわけです。その際、トラウマ時に取り込まれた過剰なエネルギーも、無理なく放出されるというものです。(ピーター・リヴァイン、2008年、pp. 211-214) 彼のこのメソッドは、トラウマ体験のバラバラな解離的諸要素、「イメージ」「感情」「思考」「行動」「身体感覚」を一貫した記憶へと一つにまとめることを目標としています。 これは、IIで述べたトラウマ形成ポイントの内、「大きなトラウマ」による第3と第4のポイントと関わる療法だということができます。 ソマティック心理療法には、他に、センサリーモーター心理療法、ボディダイナミック分析、ソマティック・トラウマ療法等があります。 3.トラウマ解放セラピー 以下の療法は、一般に、トラウマに特化した「パワーセラピー」として知られる諸療法です。筆者のアプローチはこの分野のメソッドを使いつつ、根源エナジーワークや瞑想を統合したものです。それらは、単にトラウマ克服だけではなく、目的達成や、願望実現のプロセスをもサポートする、パワフルなツールをも提供するものでもあります。 NLP(神経言語プログラミング) NLPは、1970年代のアメリカ最高の3人のセラピスト、ミルトン・エリクソン、フリッツ・パールズ、ヴァージニア・サティアの手法を分析検討して体系化された手法です。ベトナム帰還兵のトラウマ療法として驚くべき効果を上げることで、注目され、一気に全米に広がっていきました。 NLPは、潜在意識の働きを脳神経言語のプログラミングとして捉えています。サブモダリティを操作することで、トラウマ体験の印象を変化・軽減させたり、脳神経の結びつきを断ち切ったり、認知のレベルをシフトさせる等、によって、トラウマ症状の軽減や、克服を可能にしてくれます。 NLPには、いくつもの手法があり、トラウマ全般に適用が可能です。中でも、上述のIIで述べたトラウマ形成ポイントの内、特に、「大きなトラウマ」による第4番のポイントによるフラッシュバック、「小さなトラウマ」による第5番と第6番の、人生を支配するパターンやコアビリーフの形成と関わる部分に関して、とりわけ大きな効果を発揮しています。 筆者は、潜在意識とのワークを含めたNew Code NLPのコーチとして、これらパワフルなツールを駆使しています。 EMDR EMDRは、Eye Movement Desensitization and Reprocessing(眼球運動による脱感作、及び、再処理)の略です。このスキルも、トラウマの記憶とそれに対する反応の繋がりを脳神経言語レベルで断ち切る上で、非常に早く、永久的な効果をもたらします。トラウマ反応だけでなく、強迫神経症や、ネガティブな思考が頭から離れない状態にも、非常にパワフルな効果があります。 EMDRも、上述のIIで述べたトラウマ形成のポイントの内、 「大きなトラウマ」による第3番と第4番のPTSDの症状、及び、「小さなトラウマ」による第5番と第6番の、人生を支配するパターンやコアビリーフの形成と関わる部分の両方について、効果を発揮します。 EMDRの難点は、トラウマ体験に伴って形成された脳神経の繋がりを断ち切る為に、クライエントがトラウマ体験の各要素をできるだけリアルに思い出して、脳内で再体験してもらう必要がある、ということです。クライエントにとって、苦しいトラウマの記憶を思い出すことがプラスにならない場合が多いので、先に別のワークを行うなどしながら、状態を観ながら慎重に使う必要があります。 New Code NLPの創始者であるグリンダー博士は、実は、EMDRを編み出した一人です。EMDRと同様のテクニックはNew Code NLPのスキルの一つとして上位コースの訓練に含まれています。筆者も、クライエントの必要に応じて使っており、大きな効果を得ています。 エネルギー療法(TFT , EFT) TFTは、Thought Field Therapy (思考場療法)、EFTは、Emotional Freedom Technique(感情解放テクニック)の略です。 TFTについて TFTは、1970年代後半に臨床心理学者ロジャー・キャラハン博士が、 「古代東洋医学の伝統であるツボを利用したエネルギー調整テクニックは、身体症状と同様に、心理的問題にも適用可能である」(ゲアリー・クレイグ、2011年p. 82)ということを発見し、ツボのタッピングをベースとした総合的なセラピー体系を開発しました。それは、PTSDだけでなく、恐怖症、うつ、不安症など、他の心理的問題にも非常に良い結果をもたらすと言われています。 TFTは、筋肉反射テストで、タッピングするツボの位置と順番を診断します。身体中に散らばる経絡のツボのタッピング手順を、治療対象となる症状や問題ごとに定めたものを「アルゴリズム」と呼び、タッピングの前後の筋肉反射テストと合わせて、TFTの方法の中心を為しています。 EFTについて EFTは、Emotional Freedom Technique(感情解放テクニック)の略で、TFTを簡略化したものです。TFTの熱心な生徒であったゲアリー・クレイグによって開発されました。それは、TFTの筋肉反射テストと「アルゴリズム」を省略し、様々なアルゴリズムに共通する12箇所のポイントをタッピングするだけの手順です。この基本的な手順の創出によって、 TFTではアルゴリズムが作られていない症状や問題に対しても使えるようになりました。 EFTは手順が簡単で、誰にでも手軽に使えるようになっているので、多くの人達に普及するようになりました。 […]

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トラウマとは何か?

一般に心身に不快な症状をもたらすことをストレスと呼ばれていますが、ストレスが非常に強い心的な衝撃を与える場合、その体験が過ぎ去った後も、体験が記憶の中に残って、精神的な影響を与え続けることがあります。 このようにしてもたらされた心理的、心身症的な症状を、特に心的なトラウマ(心的外傷)と呼んでいます。つまり、心的トラウマは、強烈なストレスによってもたらされた精神的な後遺症だということができます。 でも、なぜそのような後遺症が起こるのでしょう?どんなメカニズムでトラウマが起こるのでしょう?このブログでは、トラウマのことを理解する為に、そんなことを考えたいと思います。その為には、まず、そもそもストレスとは何かを理解する必要があります。 I. ストレスとの関係 1.ストレスとは何か? ストレスとは何かを初めて定義したのは、カナダ人のハンス・セリエ博士です。 博士は、1930年代に、外部から不快な刺激を受けると、生体内に特定の同じホルモンが増大すること、そして、このホルモンの増大は刺激の種類を問わず同一であることを発見しました。博士はストレス的な刺激に対する身体の生理的反応について研究と発表を重ね、「ストレス」という言葉が広く世界に認知されるようになりました。博士によるストレスの定義は、「ストレッサー(ストレス要因)、或いは要求に対する生体の反応である」というものです。 2.ストレスのメカニズム ストレス的な刺激を受けると、身体は防衛の為の反応メカニズムを発動して、他の成長の為のメカニズムや修復の為のメカニズムよりも、生存を脅かすものから守る方を優先させます。これによって、身体の成長や修復が後回しになるということになります。また、防衛のメカニズムを優先させて、解毒の作用も中断します。 また、身体は、HPA 系というシステムを通してストレスに応答して、外敵や脅威から自分を守ります。ひとたびHPA系が発動すると、免疫システムが抑制されます。ですから、常にHPA系が発動されている状態は、免疫システムを阻害し、結果的に健康を損なうことになるのです。 更に、HPA系が発動されると、「闘争・逃走」という反応を発動させて、体内のアドレナリンとコルチゾールの量を増やし、行動を起こさせるように身体を準備させます。この為、消化器系の血管が収縮して腕や脚に血液を送ることになるので、消化、吸収、排出の問題が生じることになります。またコルチゾールレベルの継続的な上昇は、肥満や、記憶力、学習能力の低下、骨や筋肉の減少に結びつくと言われています。 3.ストレスの原因 ストレスは、このような、身体レベルの反応を引き起こすわけですが、そのストレスにも、結婚、引っ越し、スポーツなどの快のストレスと、トラウマ的な出来事から引き起こされる不快のストレスがあります。そして、問題となるのは、後者のストレスです。 以下では、トラウマ的な出来事から引き起こされるストレスがトラウマになるメカニズムを見ていきます。 II. トラウマとは? 1.トラウマの定義 一般的に、トラウマとは、トラウマ的な出来事に対する上に述べたような 反応が、一過性ではなく、事後も引き続き、その体験と同じ恐怖や不快感をもたらし続ける心理生理的な体験だ、と言うことができます。 より綿密に言うと、トラウマ的な出来事を事後も引き続き持続するものを、外傷後ストレス(PTS)と呼び、PTSが高レベルとなって日常的な機能不全状態になったものを外傷後ストレス障害(PTSD)と呼びます。 2.トラウマの原因 多くの出来事が、本人がそれをどのように体験したかによって、後の人生においてトラウマ的な反応を引き起こす可能性があります。トラウマを引き起こす原因となる出来事には、以下のようなものがあります。 (ピーター・リヴァイン 、日本語訳、2008年、pp. 65-66) このようなトラウマ的な出来事を体験しても、それがそのまま心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症につながるかどうかは、個々の状況によって異なるようです。実際には、PTSDの発症に至るのは、トラウマ的な出来事を経験した20~25パーセントの人だけだと言われています。むしろPTSDは、様々なトラウマ反応の一つのかたちであるということができます。 しかし、これらのトラウマ的な出来事は、PTSDといった形の心身障害として影響を及ぼすのではなくても、人生の青写真を作る「コアビリーフ」を形成するのに十分な体験となることは大いにあるのです。これについては、別のブログでお話ししています。こちらの記事をご参照ください。 3.トラウマ反応と症状 初期のトラウマ反応 トラウマ反応の中核的なもの、つまり、トラウマ的な出来事を体験した場合に最初に発現する症状には、4つの要素があると考えられています(ピーター・リヴァイン 、日本語訳、2008年、pp. 152-166) 典型的なトラウマの症状 下記の症状は典型的なトラウマ反応です。 通常、このようなトラウマ反応は、トラウマ的な出来事が終わった後に消えるべきものなのですが、それらが事後も長期にわたって続く場合、PTSDと診断されます。 (バペット・ロスチャイルド、日本語訳、2015年、p. 19) PTSDの診断 PTSDの診断には、上に書いたような症状が少なくとも1ヵ月の間、続くことが必要です。症状が3ヵ月以上継続する場合、状態は慢性的なものと見なされます。症状が出来事から少なくとも6ヵ月後に発生する場合、遅発性PTSDと診断されます。遅発性PTSDには、子供時代のトラウマに起源があって大人になって初めて発症する障害も含まれます。 III. トラウマ形成のメカニズム トラウマ的な出来事によって生存の危険を察知すると、私達の身体は、自分自身を守る為に、①戦うか、②逃げるか、それとも③凍りつくかの反応で対処します。 1.まずは「闘争・逃走」反応 私達がトラウマ的な出来事に直面したとき、正常な防衛反応として、自分を守るために戦おうとする「闘争反応」か、或いは、戦ったら自分が負ける、死んでしまうかもしれない場合、「逃避反応」を取ります。 脅威や危険に直面することは、 生存に関わるものであるため、脳の最も基底的な部分である脳幹と大脳辺縁系を使って、本能的な対応のメカニズムを発動して、生き残りに必要な行動に焦点を当てるわけです。この際に発動するメカニズムが、ストレスのところでも説明したHPA系の発動です。 脅威を知覚すると、大脳辺縁系は扁桃体に警告をならします。そこから視床下部にシグナルが送られ、交感神経が優位になり、副腎からアドレナリンが増大して、戦うか、逃げるという動作を準備させます。 そして、ストレス状態が終了すると、副腎から出るコルチゾールによって、警告反応を停止させ、身体が副交感神経優位な状態に戻ります。 2.「凍りつき」反応後のメカニズム しかし、上述の「闘争・逃走」反応で対処ができない場合、私達の反応は「凍りつき」反応へ移行します。つまり、闘うことも逃げることもできない時、身体は感覚を麻痺させたり、意識や感情を凍らせたり、意識の部分だけ全体から切り離したり、ということが起こります。硬直して、動くことも、叫ぶことも、感じることもできなくなったりするわけです。 動物は、この硬直で動かなくなることで、捕食動物の犠牲になることから逃れることが可能になります。また、死に際の苦痛を最小限にする鎮痛の手段でもあります。 動物の場合、危険が過ぎると、 硬直によって神経系の中に取り込まされた過剰エネルギーを、身震いや震えや発汗によって解放して、「凍りつき」反応から出てきます。こうしてトラウマの反応は完了するのです。 ところが、人間の場合、大脳新皮質(理性脳)がそのようなプロセスの邪魔をして、この本能サイクルが完了できなくなってしまうのです。そしてこれが、トラウマが形成される原因なのです。 凍りつき反応では、身体は本能的に収縮します。身体が収縮すると、闘争か逃走で解放されたであろうエネルギーは、神経系の中に固定されます。更に、恐怖や不安や怒りや無力感という感情が、その過剰なエネルギーにしっかり結びついて、そのエネルギーは神経系の中に閉じ込められてしまうのです。その結果、恐怖と硬直の悪循環が起こり、凍りつき反応(硬直反応)の自然な完了を妨げることになります。 つまり・・・ 凍りつき反応が解除されない ⇒危険は終わったと判断されない ⇒脳は危険な状態が続いていると判断した状態のままになる (コルチゾールの生産の欠乏) ⇒交換神経が優位のままになる ⇒トラウマ的な出来事を体験したのと同じ状態(過覚醒、狭窄、解離)が続く ということになります。 この際、脳が危険な状態が続いていると判断した状態のままになっていることから、腎臓は警告反応を停止させるだけのコルチゾールを放出しないということが明らかになっています。今度は、コルチゾールの生産の欠乏によって、警告反応は止まることなく継続していくことになる、ということです。 また、この凍りつき反応の際、トラウマ的な体験の全ての情報(感情、思考、音、光景、匂い、身体の感覚、光景など)が、身体に取り込まれます。これがトリガーになって、トラウマ的な症状を引き起こすことにもなるわけです。 更に、トラウマを受けた人は多くの場合、怒りなど攻撃性へ向かう衝動はあまりに恐ろしいので、外に向かって表現するのではなく、内側に向けて、その硬直を保ちます。この内側に抑えつけられたエネルギーは不安抑鬱や様々な外傷後ストレス症状として表れます。 このようなメカニズムによって、トラウマの症状が継続し、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症へとつながるわけです。 IV. トラウマの治療法 私達は、このブログで、トラウマについて、以下のように理解しました。①トラウマ的な出来事に直面した際の反応の3番目の反応である「凍りつき」反応が解除されず、脳が継続的に危険な状態にあると反応してしまう状態であるということ。②またそれは、凍りつき反応によって、過剰なエネルギーや、トラウマ的な体験の情報が、身体に取り込まれたまま硬直してしまった状態であるということ。 そして、そのように過剰なエネルギーが、その時の光景や身体の感覚、音、匂いなど、全ての情報と共に、身体に取り込まれてとじ込められてしまい、解放されないまま、「解離」によって、顕在意識の記憶からは、封じ込みや歪曲が起こることになります。 そのようなエネルギーは身体のどこかに存在したままになり、生体は、そのエネルギーが持つ情報、つまり、トラウマ的な「記憶」に反応し続けて、トラウマ症状を継続させていくわけです。こうして、私達が何が起こったか、忘れてしまっても、身体はトラウマ的な体験に繫がる情報に反応して、トラウマの症状を引き起こしたりするのです。 1.身体に蓄積されたエネルギーの解放 このようにトラウマのメカニズムを理解すると、効果的なトラウマ治療の方法としてまず考えられるのは、過剰なエネルギーを解放することです。 従って、治療法として第一に考えられるのは、身体の深いレベルにとじ込められたエネルギーを解放することです。PTSDの治療法として開発された「トラウマ解放エクササイズ」や、ヨガ、ダンスなどによって、身体に蓄積されたエネルギーを解放していく方法は、効果あることが確認されています。 また、「ソマティック・エクスペリエンス」といった、身体からのアプローチによる心理セラピーは、トラウマ治療に特化したセラピーとして当然効果があります。 トラウマ体験によって作られた脳神経の結びつきを切り離すEMDRや、脳神経言語によるアプローチも非常に効果があり、私もセッションで活用しています。 2.エネルギー場と潜在意識へのアプローチ ところで、身体に取り込まれたエネルギーと情報は、一体、身体のどこに存在するのでしょうか?これは、一言で言うと、人間のエネルギー場に保存される、という理解を、私は取っています。 近年、量子物理学や細胞生理学、そして、エピジェネティクスといった研究領域で、人間のエネルギー場、潜在意識、意識と、身体との関係について、新たな理解がもたらされてきており、トラウマの効果的な治療に貢献しています。 トラウマを克服して新しい変容の為の鍵は、トラウマの結果起こることをエネルギーの波動のレベルから理解し、そのレベルからアプローチすることにあります。 具体的には、例えば、精妙な波動のエナジーワークによって、トラウマのエネルギーを中和すること。そして、内なるリソースによって、トラウマの記憶を書き換えて、その波動によって、トラウマの体験のエネルギーの質を変換させて、エネルギー場に統合することだと言えます。このレベルからのアプローチは、永続的な効果があるということは確かです。私が提供しているセッションは、このレベルのスキルやメソッドを基礎にしています。 3.今後の方向性 トラウマの真の克服は、トラウマを体験する前の状態に戻る、ということではなく、トラウマの体験を強さにした新しい状態に変容するということによって達成されます。それを可能にするのは、上で述べたように、人間を精妙なエネルギー場のレベルから理解し、トラウマのメカニズムもそのレベルから理解することによってこそ可能です。 このアプローチによるトラウマの克服は、実践面では数多くの実証例が蓄積されつつありますが、それを科学的に説明することにおいては、今後の更なる研究の蓄積が期待されます。現在利用可能な研究を基にした説明は、また別のブログ記事に書きたいと思います。 トラウマ克服の為の諸療法については、別のブログ記事(「トラウマの克服方法」)で説明していますので、ぜひご一読ください。 もしあなたが、何か心理的な問題・悩みを抱えているのであれば、どうぞお気軽にお問い合わせください。 ======================= 参考文献 スピリチュアルヒーリングとスピリチュアルコーチングのDr.アマナのTOPへ戻る

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